相続税・贈与税

一次相続の代償金が未払のまま二次相続が発生した場合の相続税
— 債務控除と「混同」の整理

代償分割による代償金が支払われないうちに、支払義務者である親が亡くなってしまうことがあります。このとき代償金の債権と債務が相続人のもとで「混同」により消滅し、代償金を満額受け取れなくなるのではないか、という疑問が生じます。二次相続の申告での正しい取扱いと、贈与税が問題になり得る場面を整理します。

ご相談の概要(設例)

母の相続(一次相続)の遺産分割協議で、父が不動産と預貯金を取得する代わりに、代償分割として父から兄へ1,000万円、弟へ500万円の代償金を支払うこととされました。ところが協議成立の直後、代償金が未払のまま父が亡くなりました(二次相続)。父の遺言では、債務・葬式費用は兄弟が2分の1ずつ負担することとされています。

未払代償金を父の債務として計上すると、兄弟それぞれが自分に対する債務の一部を承継することになり、債権と債務の混同によって代償金を満額受け取れないように思われます。そこで、未払代償金を債務から外し、同額の預貯金も財産から外して(両建てで削除して)申告することはできるでしょうか。また、混同があるにもかかわらず代償金を満額授受すると、差額に贈与税が課されるのでしょうか。

結論

財産と債務を両建てで削除する申告は、法的根拠を欠くため採るべきでないと考えられます。正しい処理は、取得した財産を計上し未払代償金を債務控除する両建て計上です。そして重要なのは、混同は経済的に中立であり、遺言どおりの負担割合で計算する限り、各相続人の最終的な取り分は代償金を満額決済した場合と完全に一致するという点です。均衡を崩す配分をしない限り、贈与税の問題も生じないと考えられます。

1. 代償金の債権・債務は協議成立時に確定的に発生している

遺産分割協議は相続人全員の合意により成立し、その効力は相続開始時に遡ります(民法907条1項、909条)。代償分割による代償金の債権・債務は、遺産分割協議の成立時に確定的に発生しており、実際に資金を動かしたかどうかは効力の発生に関係ありません。判例も、遺産分割協議で負担した債務の不履行を理由とする解除はできないとしており(最高裁平成元年2月9日判決)、未払であっても分割の効力と債権債務の成立は動きません。

相続税の実務もこれと整合しています。代償財産の交付を受けた者は現物財産に代償財産を加えた額、交付をした者は現物財産から代償財産を控除した額が課税価格となり(相続税法基本通達11の2-9、11の2-10)、現実の支払の有無は問われないと解されます。つまり一次相続の申告では、代償金は未払であっても受け取る側の課税価格に満額算入され、この取扱いは後から代償金の決済がどうなっても変わりません。

2. 二次相続の申告は両建て計上が正しい

一次相続の遺産分割で支払義務者(設例の父)が取得した預貯金は、協議成立によりその取得が確定した財産です(預貯金債権は遺産分割の対象とされます。最高裁平成28年12月19日大法廷決定)。口座が未解約であることは金融機関に対する払戻手続の問題にすぎず、財産の帰属には影響しないため、二次相続の財産から外すことはできません。一次相続の申告と自己矛盾にもなります。

一方、未払代償金は、相続開始の際に現に存する確実と認められる被相続人の債務として、債務控除の対象になると考えられます(相続税法13条1項1号、14条1項、相続税法基本通達14-1)。相続人への承継によって混同で消滅することになる債務であっても、債務控除の可否は相続開始の際に現に存したかどうかで判定されるため、控除できると解されるのが実務の取扱いです。なお、相続税対策のために名目的に成立させた債務について確実な債務への該当を否定した裁決例(国税不服審判所令和3年6月17日裁決)がありますが、遺産分割協議に基づく実体的な代償金債務はその射程外と考えられます。

したがって、財産・債務の両建て削除は、税額の総額が変わらないとしても、申告書が事実(財産の存在、債務の存在)と異なることになり、採るべきではありません。預貯金口座の残高照会と一次相続の申告書・遺産分割協議書との突合により、財産計上漏れとして把握されやすい処理でもあります。

3. 混同の整理 — 経済的には中立で、取り分は変わらない

金銭債務は相続開始と同時に相続分に応じて当然に分割承継されます(最高裁昭和34年6月19日判決)。遺言による承継割合の指定は相続人間では有効です(民法902条の2、最高裁平成21年3月24日判決)。設例では各2分の1ずつの承継となり、各相続人は自分自身に対する債務を承継した部分について、債権と債務が同一人に帰属するため混同により消滅します(民法520条)。

保有する債権承継する債務(各1/2)混同で消滅混同後の残り
1,000万円750万円(兄宛500万円+弟宛250万円)自己宛の500万円弟に対する債権500万円/弟への債務250万円
500万円750万円(兄宛500万円+弟宛250万円)自己宛の250万円兄に対する債権250万円/兄への債務500万円

残った債権債務を差引で決済すると、弟から兄へ250万円を支払えばすべて清算されます。

ここで重要なのは、混同は経済的に中立だという点です。兄は債権500万円を失うと同時に、自分が負担するはずだった債務500万円の支払を同額免れており、差引の損得はゼロです。検算すると、代償金を満額決済する方式でも兄の純額は受領1,000万円から負担750万円を差し引いたプラス250万円となり、混同を前提とした差引決済のプラス250万円と完全に一致します。「混同のせいで代償金を満額もらえない」という見方は、債権の消滅だけに目が行き、同時に同額の債務負担を免れていることを見落としたものといえます。

4. 贈与税が問題になるのはどのような場合か

遺言どおりの負担割合・分配計算がされている限り、代償金を満額授受する形をとっても、相続人間に無償の利益移転は生じないため、みなし贈与(相続税法9条)の問題は生じないと考えられます。贈与税のリスクが現実化するのは、たとえば一方の相続人が債務の負担なしに代償金の満額を受け取るなど、遺言や法定の負担割合を事実上その相続人だけが免れる、均衡を崩した配分をした場合です。

実務上は、遺言どおりの残額計算、債務の負担割合、混同の相殺整理、満額決済との一致を数値で示す精算表を作成・保存しておくことが、相続人への説明と税務調査への備えの両面で有効と考えられます。現実の資金の流れとしても、遺産整理の口座から各相続人へ代償金を満額支払い、各自の債務負担分は財産の取得額の中で調整する形にすれば、経済実質を変えずに満額の入金という形を整えることができます。

5. あわせて押さえておきたい点

「実質帰属」を理由とする財産の付け替えは困難

指摘を受けた場合に備えて、「預貯金は名義にかかわらず実質的には相続人に帰属していた」といった主張を検討することがありますが、遺産分割協議書と一次相続の申告によって帰属が確定した財産についてこの主張をすることは、自らの協議・申告と正面から矛盾します。また代償金の受取人が有するのは金銭債権であって、特定の預金債権そのものではないため、預金のうち代償金相当分だけを切り出して相続人のものとする構成は、金銭債権の性質上成立しないと考えられます。

支払えなかった事情は混同を妨げないが、無意味ではない

協議成立から間もない相続の発生、支払義務者の高齢、換金を要する資産構成といった事情があっても、混同は法律上当然に生じるため、その成立自体を妨げることはできません。ただしこれらの事情は、未払代償金が仮装ではなく確実な債務であることの立証材料、租税回避の意図がないことの裏付けとして有効に機能すると考えられます。

相次相続控除

一次相続と二次相続が10年以内に続いた場合は相次相続控除(相続税法20条)の適用場面ですが、一次相続で配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)により支払義務者の納付税額がゼロであった場合には、控除額もゼロとなります。

主な根拠

ご注意
本記事は、AIによる調査・整理を活用した一般的な解説であり、特定の事案についての結論を示すものではありません。代償金の負担割合や遺言の内容によって混同の生じる範囲や精算額は変わり、実際の取扱いは個別の事情により異なります。具体的な判断にあたっては税理士等の専門家にご相談ください。